日本は一時期「経済一流・政治三流」と言われたことがあったが、バブルを崩壊さした後に20年にも及ぶ停滞期を招いてしもたことから、経済も二流以下やったことが露呈してしもたんやな。
これが中国になるともっと凄まじい。不動産バブルが弾けて鋼材需要が激減しとるにも関わらず生産を調整しやんで価格を暴落さした挙句、それを海外に安値で叩き売ることで世界の鋼材価格にまで引き下げ圧力をかけとるねんから、これはもう三流どころの騒ぎとちごて論外やな。政治手法かて論評するに足りんわいな。フランス人は政治を政変と混同してると言われるそうやが、中国では政治とは権力闘争と汚職のことを指すらしい。
それに、どうも中国では実務能力の高い政治家を軽視する傾向があるみたいで、その根源は科挙制度にあるんやないかいうこっちゃ。
科挙は隋の煬帝の父の文帝（楊堅）が始めた人材登用のための試験制度で、当時としては画期的な公務員試験制度やった。何せ、女性や商人とかやなかったら誰でも受験でけて、宋代には上位合格でけたら宰相の地位すら夢ではのうなるねんさかいの。因みに、科挙には武科挙なる武官採用コースもあってんけども、中国歴代王朝で武人が文官よりも勢力が強かったんは三国鼎立時代などの混乱期だけで、比較的平和な時代が長かったこの時代は概ね文官が武官よりも偉そうにしとったようやな。せやから、武科挙に及第したかて大して出世でけんかったんで、科挙とは通常は文科挙の方を指す。
科挙制度による官吏登用が機能し始めたんは早くとも安史の乱によって貴族階級が衰退を始めた中唐以降で、五代十国の大乱の中で貴族の権威が完全に損なわれた北宋時代になってやっと定着し、優秀な人材を確保するのにそれなりの効果はあったらしい。
せやけども、どんな制度も完璧て言えるモンはあらへんし、しかも長年に亘ると疲弊するんは避けられんのはこれも例の外やなかった。もちろん、時代によって試験カリキュラムの変更はあってんけども、そんでも形式主義的になるんは避けられんかった。
次に、試験が難しすぎたんがあかんかった。せやから、試験勉強でけるんはある一定以上に恵まれた家の子弟だけに限られとった。まるで、今の東大合格者の大半が裕福な家庭出身者みたいなんと似とって、こんなんでも一応は優秀な人材は得られるけれども、多様な人材を募ることなんかでけんわな。中国社会が長年に亘って停滞しとったんは科挙のせいや言えるやろう。
しかも、これらの試験に合格して得られる資格（挙人・貢士）は科挙の次の段階を受験でけるだけやったから、べらぼうに多くの人の時間がムダになっとったことになるんやな。現代の大学入試でも勉強時間が多く取られてることが問題なっとるけど、科挙はそんなスケールやなかった。
んでから、試験科目が非実用的やったんもあかなんだな。政治や歴史はまだ分からんでもないが、儒教など所詮は皇帝の独裁政治を正当化するための手段以外の何ものでもなかってんからな。こんなんが科目に入っとったらそらあ時代と共に試験内容が硬直化してまうんも当然やし、中国で政治家や官吏の実務能力の高さが評価されんようになるんもまた然りやな。
それに、結果としてもっとあかんかったんが、中国が日本よりも西洋文明の受容が遅れたんも、儒教が科目に入ったある科挙が原因やちゅうとこや。朝鮮王朝も科挙を導入しとったことから、韓国人がナンボ「植民地近代化論」を否定したがっとってもそれはまるで説得力があらへんちゅうこっちゃ。儒教なんぞが重視される環境でクリエイティブな学問分野の人材が育つ訳あらへんし、中韓両国が今なお近代法治国家に脱皮でけん理由も、同じくノーベル賞学者がなかなか出ェへん理由も科挙にあると言えるやろう。
さらに言うたら、科挙によってなまじの知識階級が増えてしもて、科挙に失敗した人々が叛乱に荷担するようなったことが、中国の歴史に影を落としてるちゅう指摘もある。現代中国はある意味日本よりも教育に熱心なとこがあるんで、それを享受して来た人民が一斉に蜂起した場合、北京政府は太平天国の鎮圧以上に手ェ焼くことになるやろうし、悪くすれば国家転覆させられるかもしれんの。教育は国家百年の計とも言われるけども、時には亡国の元にもなる。民主カンボジアでポル・ポトが知識人を大量虐殺したんはもちろん愚民化政策の一環やけど、叛逆された時のことを恐れたこともあるんやろの。
アホ大学に無試験同然で入れる一方で、難関校は相変わらずの受験地獄の日本の大学入試も問題なしとはせえへんが、それがさらに厳しい中韓は日本よりも遥かに深刻な問題を抱えとるように思われてならん。大体、試験勉強ばっかでは教養人の芽ェが摘まれることになるし、そんなんではますます創造性の高い社会の実現なんか遠のく一方やで。まあ他の国のことやし、今のままの方が日本の国益になるんで、ほっとったれや。（つづく）
