2009年1月某日の夜、橋本英夫は、北〇阪某所、屋鋪隆人(やしき・たかひと)邸に在った。
屋鋪はええ具合にワインが入って、既に説教モードに入っていた。恐怖の『夜明けまで泣くまで説教』である。
「なんべん言うたら分かるんやアホンダラアホーッ!!」
「そんなん言われましても、んなムチャなこと出来るわけないやないですか。僕はもうタレント弁護士ちゃうんですよ。そんなウケ狙いなことしてもし外したら、せっかくの支持率が‥‥‥」
「おのれはまだそんなセコいこと考えとんかィアホーッ!」
「そんなアホアホて、アホ連発せんでも‥‥‥」
「何言うとんねんアホ。〇阪弁いうのんはなアホ、語尾に『アホ』つけやなあかんに決まったあるやないかアホ」
(いや、つけやなあかんことはない思うけど)
「ともかく、なんぼ隆人さんの提案でも、それは実行できませんよ。」
「なんでやねんアホ」
「そんなん一種の言論封殺やないですか。モロ憲法違反ですよ」
「せやからさっきからその心配ない言うとるやないかアホ」
「仮にそうだって言ったって、程度てモンがありますよ。世の中には真に受ける人だっているかも知れませんよ。あんまり常軌を逸したモノだったら、それこそ府民から軽蔑されますよ。『ああ、橋本はやっぱりエロだけやなしにアホやった』やなんて‥‥‥」
バキッ!ゴッ!
屋鋪は橋本の顔面をグーで殴った。フックがかかっとってついでにエルボーも入った。いやしくも府知事をしばくとは、屋鋪も余程頭来たのだろう。
「殴ったろかアホーッ!!」
橋本は鼻血を拭きもって、
「な、な、殴ってから言わんといて下さいよォ」
「ともかくやなアホ、オレの言うとおりにしたら、おまえの人気も上がるんじゃアホ。オレが今までどんだけテレビの数字的中さしたんか知らんのかアホ」
「クビチョーの支持率を、テレビの視聴率と一緒にしますか?」
「なに言うとんねんアホ。オレはおまえの支持率だけでモノ言うとんちゃうんぞアホ。これは〇阪人の沽券に関わる問題やねんぞアホ」
「何でそこまでこの条例案にこだわるんですか」
「〇阪人一人当たりのお笑いGDPをやな、日本一にするんやないかアホ」
「そんなんどうでもいいやないですか。お笑いだけで〇阪人食わして行けるんやったら、誰も苦労しませんよ」
「何やとーっ!!いっぺん目ェ突いたろかアホーッ!」
ベキッ!ガッ!
今度は左フックが橋本のアゴを捉えた。フォロースルーでエルボーがアゴ先を掠って、橋本は一瞬気ィ失いそうなった。屋鋪は激して言う。
「〇阪発祥の大会社がやな、次々と〇阪から本社機能を引き上げとる今の状況を何とも思わんのんかアホーッ!」
「そ、そんなん百も承知してますよ。でもどないしたら〇阪に残ってくれんのかわからんのやないですか」
橋本の目ェに涙が滲んだ。左右のフックの所故だけではないようだった。屋鋪はやや語気を和らげて、
「あのな、その理由は世間ではなんや言われとんねんな?」
「〇阪ではビジネスに必要な情報が手に入れにくいから、といわれてます」
「せやな。せやけどそれだけでは上っ面かいなでただけの分析や」
「どういうことですか?」
「東京は確かに世界中の情報の集中する場所や。それも日本一どころか世界で三本の指入るぐらいのな。三本の指入る言うたかてガバガバいう意味ちゃうで」
「何を中途半端にやらしいこと言うてるんですか?」
「う‥‥‥」
屋鋪は橋本に「中途半端」とツッコまれて一瞬言葉を詰まらせたが、軽くスルーすることにした。
「と、ともかくやな、東京は大量の情報は集まるけど、大量に情報を発信する場所とは決して言えん。優れた海外からの情報受信転送機能があるだけに過ぎんわ」
「‥‥‥!!」
「情報発信能力いうのんはな、別に放送局や新聞・出版社の数ちゃうぞ。東京は人口は多いくせに、一人当たりの情報発信能力はそない高いことあらへん」(根拠はナイ)
「‥‥‥」
「〇阪は変に東京のことを意識しやんと、〇阪独自の道を行かなあかんねや。関西には東京にない『ことば』の発信力があることは、柳田國男の『方言周圏説』でも明らかや。ただ、柳田の言う『ぶんまわし』の中心は京都やったけど、今は〇阪や。東京で言いたいこと言えん政治家も、関西ローカルのテレビで言いたいこと言うたりしよんねん。ある意味東京は情報の空白地域でもあんねん」(相当に恣意的な分析ではある。ていうか、ナ〇トスクープの見過ぎ)
「‥‥‥」
「おまえのこれまでの府政の進め方は決して間違ってへん思うぞ。府の施設の大量整理もええやろ。ホンマに大事やのんは、『ハコモノ』とちごて『中身』やからな。日本人のあかんとこは『ハードやツールの重視・ソフトにコンテンツの軽視』て昔から言われ続けとるけど、これは全然直る気配があらへんな。せやから逆にチャンスなんやないか。〇阪が日本一の情報発信基地になれるチャンスやぞ。いや、世界一は無理でも、北東アジア一にはなれるはずや」(極めて無責任な発言)
「‥‥‥」
「〇阪が日本中に向けて大量に発信できる情報コンテンツいうたら、だれでも『お笑い』やて思いつくわい。まあ『先ず隗より始めよ』や」
橋本は決然と言った。
「わかりました。隆人さんのアイデア『〇阪府しょうもないこと言い撲殺条例案』、有難く頂戴致します」
「『撲殺』ちゃうわアホ、『撲滅』や!」
「せやけど今日の隆人さんの説教は、〇阪府市長会よりきつかったですわ。池〇市長より、ヤカラの方がえげつないいうことですね」
「やかましいアホ!!」
ともかく、こうして橋本英夫・〇阪府知事による条例案の記者会見席上での発表は決まった。この条例案を府民に示すことによって、府民の間でお笑いセンスを磨ける土壌を醸成することを目的として。(つづく)